当会の小学校受験主任の谷内先生は、基礎段階を終えた年長クラスの応用期(5月以降)に「判断」という言葉をよく発します。
基礎期間中の指導を通じ、指示理解力と実行力を身につけた子供達に「これからは自分の判断を大切にしなさい!」というわけです。
判断ミスは人間にはつきものです。まだ就学前迄の短い期間の人生経験をしていない幼児ですからなおさらです。
夏場の成長著しい時期ならしないような判断ミスを二、三回繰り返すこともあります。ミスをしても良いのです。まだまだ思考の浅い時期です、うっかりミスをした後「いけない!やりなおそう!」という意識や「よく聞き、見る」意識が育てば良いのです。
数時間の授業を通じて、「思考力を育てるペーパーや個別教材」「絵画・制作・巧緻性」「社会性を育むグループ単位の行動観察指導や運動」を、「よくあれだけ…」と受験後に振り返って思うほどの学びを卒業式の日まで経験するのですから、自然に判断ミスを繰り返さないようになっていくのです。
気になるのは、「親の指示を守っていれば良い…」「余計なことをしなければ褒められるんだから…」と思い込んでいる「親にとって都合の良い子供」が近年多い事でしょう。
親の顔色を見て「これしていいの?」と常に確認する習慣が身につくのは、親が我が子を溺愛するが故の「親の安心の為の管理型子育て」が理由ですが、ほどほどにしておかないと自己判断力が育ちません。
もちろん、その対極となる「何でもありの叱らない子育て」も困りものですが、何れにしても「自己判断のかけらもない子供」や、「何でもしたいようにすれば良い」と思っている子供であっても、考査現場で附属の先生方が「指導したいと思う魅力ある子供」に育て上げるのが私達の仕事です。
だからこそ、「小学校受験準備なら、せめて年中クラスから通ってください…」と私たちが思っている事だけは理解して頂けるとありがたいです。と同時に『習い事でついてしまったその子らしくない癖』も「可能な限り身につけさせないでください、素の状態に戻すのに時間がかかりますから…」と思っていることも知って頂けると嬉しいです。
私は、指導する先生方にも仕事の基本を身に着ける初期段階はともかく、数年間の基礎期間が済めば、自己判断で仕事をして欲しいと思ってきました。
当会の各クラスの主任やベテランの補佐の先生方には、常にそうあって欲しいと思ってきました。もし判断ミスがあっても私が任せたのですから、私が責任を取ればよいのです。良いと思ってしたことなら「余計なことをするな!」と言いたくないですし、「失敗や挫折を経験しなければ成長しない」と思っているので、私は主任教師時代から、なるべく任せる姿勢を大切にしてきました。
子供達に自己判断を促しているのですから、それは大人であっても同じで、とにかく自分の頭で考えて仕事をして欲しいのです。先生方が私の顔色を見るような仕事をしてほしくないのです。
任せて我慢強く見守る姿勢が人を成長させるのです。
その姿勢の原点は、私の人生において最も刺激的な人的影響を受けたと言える子役時代(1960~1964年)に学んだと思っています。
私のブログをよく読まれる方はご存じかもしれませんが、私は小学校一年から四年生までの四年に亘り、邦画やまだ生放送全盛期のテレビ、そして舞台やテレビCMに出演し、少年向け月刊誌の表紙の仕事をしていました。
特に邦画は、東映京都の時代劇や日活の文芸作品を中心に九本の作品に出演し、生意気にも主役もさせて頂き(後にテレビ版の主役も)、小学校よりもスタジオや舞台にいる時間の方が多い特殊な育ちをしました。(子役時代は島村徹)
幸せなことに巨匠と呼ばれる監督作品に多く出演させて頂いたので、今は亡き大御所の俳優の皆さんにも可愛がって頂きました。
巨匠監督の多くは、演技を私に任せる方がほとんどでしたが、ベルリン国際映画祭金熊賞作品「武士道残酷物語」の今井正監督は、母(有馬稲子さん)の前で箪笥の引き出しを閉めるだけのワンカットで、何十回も私に繰り返させました。勿論本番ですから、高価なフイルムを相当無駄にしたことでしょう。
引き出しを閉めるだけの動作ですが、ひたすら「もう一度お願いします。ヨーイ ハイ!」を繰り返す巨匠…
母親らしい優しい笑顔を崩さず短い台詞を繰り返す有馬さん…
一言の文句を言わずに見守る数十名の東映京都撮影所のベテランスタッフ…
スタジオ内は静寂が続きます。
何故駄目なのか?理解できない侍の子に扮する九歳の私は、必死になってその侍の子の思いを探ります。申し訳ない気持ちと、焦り…カツラをかぶっているときは決して汗をかかないという特技を身につけていた私でも、汗ばんでいたことでしょう。
途中、休憩を頂きました。しかしながら休憩後も「もう一度」が続きます。引き出しだけを見続けていた私は、ふと巨匠の顔を見ました。何とも言えない温かい微笑みで私を見ていました。
その瞬間何かを悟ったのかもしれません。次のテイクで「オーケー!」という大きな声。
巨匠の思い通りの動きをしたのか、それとも諦めたのかは今もわかりません…
でもその場の記憶は60年後の今も蘇るのです。
監督は演技をつけず私に考えさせたかったのでしょう。「九歳の頭で考えてごらん、必ず答えを見つける筈だから…」と、私を信じて下さったのだと思っています。
次に撮影した萬屋(中村)錦之助の演じる父親の前で、正座で武士の戒めを復唱する大事なシーンは一発OKでしたから、数十回の撮り直し経験で大きな学びを得たのでしょう。
師である父親の言葉の意味を理解しようと、前日に台詞を何度も繰り返したのですから…
麹町慶進会 塾長 島村 美輝
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